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 裕子は歩幅を無意識に狭め、玄関への道のりを遠くしようとしていた。 こんな事をしても玄関はすぐそこに見えているというのに、 往生際が悪い。 だが、ここで玄関を開けないわけにはいかない。 キャンセル料なんて払いたくもないし、そんなもったいない事もできない。 もったいない、と言うわりに足取りは重い。 今更ながら後悔が襲ってくるが、面倒くさいのはどちらにしてもだ。 はぁ、とため息をついた裕子は、玄関にかかっているチェーンロックをつけたまま、扉を開いた。 「あ、どうも。プレジャーズから来ました、龍二(りゅうじ)です。こんばんわ」  チェーンロックががちゃん、とぴんと張っている。 それに若干驚きながらも、約十五センチほど開いた隙間から、龍二と名乗った男がひょい、と顔を出した。 マンションの廊下の灯りで逆光になり、顔がよく見えない。 しかも玄関の電気もつけていなかったため、暗くて余計そうだった。 裕子は一度頷いてから扉を閉めた。 ドアノブを握ったまま、チェーンロックに手をかけたまま、考える。 チェーンロックを解き、扉を開いてしまったら、裕子は龍二を買った事になる。
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