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 藤川裕子(ふじかわゆうこ)は二年前に購入したノートパソコンで、とあるウェブサイトを開いていた。 一睡もしていない裕子の目は充血し、目の下にはくまが出来ている。 かちかち、と鳴るマウスのクリック音と、たんたん、と打ち鳴らすキーボードの音が、耳鳴りがするほどに静かだった裕子の部屋に響き渡った。  裕子は二十九歳で、割と大手の会社に勤めている。 四年大学を卒業したと同時に入った会社で、経理部で働く裕子は後輩にも慕われる姐御肌の持ち主だ。 上司や先輩のお姉さま方との折り合いも悪くはない。 仕事場でのトラブルは、まだ起こした事もない。 新人の頃のミスを今は指摘し、後輩達に指示する立場だ。 淡々と仕事をこなす裕子はこの経理部でも頼れる人の部類に入り、評価されていたが、それは仕事上だけの事だ。 裕子は仕事はこなすが、それほど出来た人間ではない。 「藤川さんは結婚しないの?」
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