1209人が本棚に入れています
本棚に追加
裕子は歩幅を無意識に狭め、玄関への道のりを遠くしようとしていた。
こんな事をしても玄関はすぐそこに見えているというのに、 往生際が悪い。
だが、ここで玄関を開けないわけにはいかない。
キャンセル料なんて払いたくもないし、そんなもったいない事もできない。
もったいない、と言うわりに足取りは重い。
今更ながら後悔が襲ってくるが、面倒くさいのはどちらにしてもだ。
はぁ、とため息をついた裕子は、玄関にかかっているチェーンロックをつけたまま、扉を開いた。
「あ、どうも。プレジャーズから来ました、龍二(りゅうじ)です。こんばんわ」
チェーンロックががちゃん、とぴんと張っている。
それに若干驚きながらも、約十五センチほど開いた隙間から、龍二と名乗った男がひょい、と顔を出した。
マンションの廊下の灯りで逆光になり、顔がよく見えない。
しかも玄関の電気もつけていなかったため、暗くて余計そうだった。
裕子は一度頷いてから扉を閉めた。
ドアノブを握ったまま、チェーンロックに手をかけたまま、考える。
チェーンロックを解き、扉を開いてしまったら、裕子は龍二を買った事になる。
最初のコメントを投稿しよう!