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それは裕子の深呼吸と、龍二の声に反応した心臓の鼓動の音だと、数秒後に理解する。 「……あー……実は、こういうの初めてなの。それでちょっと、戸惑ってるっていうか」 「ああ、緊張しますよね。俺も、やっぱ緊張しますよ」  驚いた事に龍二も緊張という言葉を口にした。 いつもやっている仕事なのに、と勝手に解釈するのは失礼であったか。 こ慣れた態度は裕子のような客を安心させるためか。 だが龍二は本音を喋る事でそれを紛らわせてくれているのだろう。 と、裕子はやはり勝手に解釈する。  龍二はこの出張ホストの仕事に就いてから、まだ日が浅いという事まで教えてくれた。 「毎回、緊張しないって言ったら嘘ですよ。初めてのお客さんだったりしたら、余計に緊張するものですし。初めて会う方ですから。二、三回リピートしてくれたお客さんにも俺はそうなんですけどね、ははっ」
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