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茶化しもできない、真っ直ぐの目というものは、こんなにも深く、黒いのかと、裕子は視線を反らす代わりに目を閉じた。 目を閉じれば、また黒い色が目の前に現れる。 夜の街とは違い、ぽつぽつと見える街灯もなければ、人の気配もない。 代わりに裕子を大きく揺さぶる出来事が次々と浮かんでは消え、黒ではなく、また闇を作るのだった。 「……じゃあ、聞いてくれる?」 「はい」  目を瞑ったままそう言った裕子の指から、龍二は煙草を引き抜いた。 いつの間にか煙草の灰は長くなり、今にも落ちそうだったからだ。 裕子の煙草を灰皿に押し潰してから、龍二は自分も吸っていた煙草を半分ほどで押し潰した。  裕子はいつもフィルターぎりぎりまで煙草を吸う。 だからか、いつも喉がいがらっぽくなり、煙草の後は何か飲みたくなる。 今日はビールがあるが、いつもはコーヒーだ。 今はいつもよりいがらっぽい気がする。
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