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何故、見ず知らずの、初めて会った、しかも出張ホストを仕事とする男に告白しているんだろう、と思った。 馬鹿みたい、なんて、恥だ。  龍二はジッポを手に取り、かちゃんかちゃん、と一定のリズムでケースを開け閉めしている。 小気味良い音に、裕子は落ち着きを取り戻す。 煙草を挟んでいた指に気づき、そっと灰皿に灰を落とす。 すーっ、と吸い、はーっ、と吐く。 かちゃんかちゃん、と鳴る音と、吸い慣れた煙草の煙は、裕子を元に戻した。 「ごめんなさい、こんな事をするために貴方は来たわけじゃないのに」 「いいえ、聞いたの俺ですし」  龍二は白い歯をにっ、と見せ、笑う。 おそらく店の仕事だけじゃないはずだ。 龍二はこういう男なんだと思う。 だが裕子は、絆されるな、と我に返る。 こういうところを見せて、出張ホストは重宝されるのだ。 悪いとは言わないが、はまるきっかけはいらない。
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