1207人が本棚に入れています
本棚に追加
何故、見ず知らずの、初めて会った、しかも出張ホストを仕事とする男に告白しているんだろう、と思った。
馬鹿みたい、なんて、恥だ。
龍二はジッポを手に取り、かちゃんかちゃん、と一定のリズムでケースを開け閉めしている。
小気味良い音に、裕子は落ち着きを取り戻す。
煙草を挟んでいた指に気づき、そっと灰皿に灰を落とす。
すーっ、と吸い、はーっ、と吐く。
かちゃんかちゃん、と鳴る音と、吸い慣れた煙草の煙は、裕子を元に戻した。
「ごめんなさい、こんな事をするために貴方は来たわけじゃないのに」
「いいえ、聞いたの俺ですし」
龍二は白い歯をにっ、と見せ、笑う。
おそらく店の仕事だけじゃないはずだ。
龍二はこういう男なんだと思う。
だが裕子は、絆されるな、と我に返る。
こういうところを見せて、出張ホストは重宝されるのだ。
悪いとは言わないが、はまるきっかけはいらない。
最初のコメントを投稿しよう!