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裕子から話を聞かなければならないのか、雅文自身が話し出すべきではないのか。 どちらにしろ、しなければならないという事は分かっている。 だが、動けと思う足は、まるで泥沼にでもはまったかのように動かない。 片足が抜ければ、また違うのかもしれないが、一人ではなかなか抜けない。 誰かが、手を引いてくれないと、などと自分を甘やかす考えに裕子はいつの間にか作っていた眉間の皺を伸ばすように、額に手を当てた。  隣を見ると、まだ火が残っている龍二が小刻みに足を震わせていた。 貧乏揺すりはソファーを伝い、裕子をも軽く震わせている。 貧乏揺すりは嫌いだ。 だが心理は分かる。 無意識か、そうではないか。 欲求不満もその一つだ。 後半のこれが、今の龍二に当てはまるだろう。 だが貧乏揺すりは裕子に起こってもおかしくない。 何の動きも出ない裕子にとって、その揺すりは羨ましく見えた。 「……で、何もしないんですか?」
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