1209人が本棚に入れています
本棚に追加
連絡もせずに、この城で待っているだけだろう。
抗う事もしないと思うし、出来ないとも思う。
「……だから、手を……」
「え?」
裕子の呟きに龍二は聞き返すが、裕子は前を見据えたまま、反応を返さなかった。
泥沼にはまった片足を抜くために、人の手を借りる。
差し出された手は、龍二が自らの意思で伸ばしてくれた。
やはり、待っているだけの自分に、裕子は気づく。
知ったのに、当の本人が何もしないなんて、泣き寝入りの一歩手前だ。
泣き、寝入り?
「……泣き寝入りなんて、冗談じゃない」
裕子はやっとで自分を取り戻せた。
にっ、と笑って龍二の提案に答える。
裕子は泣いてなんかいない。
まだ、一度もだ。
これからも泣くつもりはない。
だがこのまま何もしなかったら同じ事だ。
自分にもまだ、プライドが残っている。
恥ずかしいなんて思いはもうない。
辱められたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!