旅立ち

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*旅立ち・2* 「フィルティア」 名を呼ばれ、長い廊下を歩いていた少女が振り返る。 年の頃は、十九。 艶やかな金色の長い髪をなびかせて振り返った少女は、美しい顔立ち、優しさを湛えた双眸を緩ませた。 「フォルソン大司教様」 四人の大司教の中で、唯一フィルティアを推薦していた大司教だ。 形式通りに頭を下げて挨拶するフィルティアに、「顔を上げなさい」と、優しく声を掛ける。 「フィルティア、君に話がある。来なさい」 そうして、二人は大聖堂の中庭へと場所を移した。 「よく責務を果たしているね。クレイモンドが亡くなって、まだ間もない。辛いだろうに」 緑豊かな、美しい中庭。 そこにある椅子に向かい合うように座り、フォルソン大司教は気遣うように声を掛けた。 「父の事は悲しかったですが、役目を果たす事を、父もきっと望んでいます」 少し悲しみの残る笑みを浮かべながら、フィルティアは努めて明るい声で答えた。
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