旅立ち

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「君に、大司教に就任してもらう話が出ている」 「私が……大司教に、ですか?」 「まだ、決定ではなくてね。他にも、候補者がいるんだが、君に、ある試練を乗り越えてもらおうという話になっているんだよ」 「ま、待って下さい!私が大司教なんて、恐れ多くて、とても……。それに、他にも適任者は沢山いらっしゃいます」 「君の、そういう野心のないところは美徳だと思う。しかし、大司教となり、より多くの民を救う事こそが、クレイモンドが君に託したかった望みではないだろうか」 厳しい瞳が、フィルティアを捉える。 「大きな役職に就くという事は、それだけ、大きな責任や痛みを伴う。誰にでも出来る事じゃない。本気で誰かを、世界を救いたいと願うなら、その痛みを受け入れるべきじゃないかね?」 「私に……務まるでしょうか?」 「フィルティア。務まる、のではなく、務めるんだよ。何かを成し遂げる決断は、他人が決めるのではなく、自分自身で決めるんだ」 「自分自身で……決める」 今まで、大聖堂の教えに忠実に従い、神の教えに従ってきたフィルティアは、自分自身で決断する事がなかった。 初めて、ここの門をくぐってから一度もない。
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