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夢を見ていた。
なぜ夢だとわかるのかと訊かれたら、今はもういるはずのない彼女が俺の隣にいるから。
無邪気な笑顔を浮かべるその人の顔にかかる綺麗な髪をそっと耳にかけてやると、すぐに顔を赤くして俯いた。飄々としているようで、実はすごく女の子なのだということを俺は知っている。
その姿が可愛くて、思わず俺も微笑んだ。
すると彼女も頬を紅く染めたまま微笑み返してくれる。
──永遠にこんな平和な時が続けばいいのに。
心の底からそう願っていた。
だが──それは叶わない。
気づくと目の前にいた彼女は消え、代わりに“あの時の光景"が広がっていた。
炎に包まれる街。
逃げ惑う人々。
彼らの悲鳴。
阿鼻叫喚としか言いようがない。
その中で俺はある公園で立ち尽くしていた。子どもの頃遊びまくった遊具は全て壊れているか溶けたかのどちらかだった。
そして俺の視線の先には──体中ズタボロにされ、血の池の中で横たわる彼女。
俺は彼女の傍に駆け寄り、膝をつく。自分の無力さに、絶望して。
すると彼女は弱々しくその腕を上げ、俺の頬に触れた。
「りん、と…………大好き」
震える唇を精一杯動かして告げられたその言葉。
今まで見た中で一番の笑顔でそう言うと、彼女は手は力を失ってまた血の池へと落ちる。そして彼女はゆっくりと目を閉じてそのまま動かなくなった。
こんな美少女に愛の告白をされたのにどうして俺は泣いているんだろう。
こんなか弱い女の子が傷だらけなのに、何で俺は無傷なんだろう。
なんで、どうして……、と自分を追い込むような問いかけしか出てこない。
とめどなく溢れる涙にはぐちゃぐちゃになった俺の心が詰まっているようで、どうしてか濁って見えた。
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