甘……くはなかった邂逅

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 ──春。  それは始まりの季節であり、出会いの季節。  学生にとっては入学式や新学期。  社会人にとっては入社式。  新たな出会いに心躍らせ、だがちょっぴり不安も抱えて迎えるこの季節。  日本の名物とも言える桜が「我が季節なりッ!」と言わんばかりに咲き誇っている。  俺達日本人はこの桜を見て、春の訪れを直に感じ取ると言っても過言ではない。皆が桜に背中を押されるように新たなスタートを切るんだ。  ……そのはず、なんだけど……。 「スタートラインすら見つからない俺はどうすれば……」  はぁ、と俺は一人ため息をついた。  この春から俺──甘宮 凜斗は高校生になる! ……なる、はず。  しっかりと新品の栗色のブレザーに身を包み、そしてこれまた新品の灰色のスラックスをビシッと履いて入学準備万端。深紅のリュックも背負っていつでも行けるぜ! な俺なのだが……。 「学校、どこにあるんだよ……」  絶賛迷子中。迷子なう。now迷子ing。  大通りを歩いていたはずなのにいつの間にか路地裏を通って見知らぬ道に出て、そこから何故か廃ビルの前まで来ている俺。……どうした俺。  俺に方向音痴スキルなんてものはないはずだ。確かにちょっと郊外と比べると道は入り組んでるよ? 建物も多いよ? 人も多いよ? けど高校生にもなって迷子なんて……ねぇ? 「本気でどうしよ……」  頭を左右に振って思考を切り替える。  ここで俺は辺りを見回した。  前方には廃ビル。「山月薬品」って看板に書いてあるからきっとそうだったんだろう。  後方には空き地。こんな廃ビルの前に家建てようなんて変わり者いないだろうに。  左右に首を振れば、あるのは道路のド真ん中で戯れる猫ちゃん達。そして猫ちゃん達と反対方向にはぽつぽつと住宅が並ぶ寂れた道路。  一応上も見ておこう。見上げれば青空……のはずなんだけどこの辺は何故か少し薄暗い。記憶違いかはたまた異常気象か。  俺は一旦目を閉じる。……カッ! と見開き、そして叫ぶ! 「どこに行けばいいんだよ!?」  五方塞がりだよ!
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