甘……くはなかった邂逅

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 そして俺の脳裏に空き地へダイブした時のことが過ぎる。 「あの時か……」  どうやらダイブした拍子にどこか壊れたらしい。  チッ、と思わず舌打ち。出血量にもよるが時間をかけるのは良くないだろう。。  血の跡やさっきの異常なカーチェイス。危ない匂いがプンプンする。  制服と時計、その二つを見る。けど頭を左右に振り、頬をパン! と強く叩いた。 (迷うな俺)  こんなの俺がわざわざやるべきことじゃないが、警察にも連絡のしようがないんだから仕方がない。  それに何より──── 「──これで遅刻しても言い訳ができる!!」  立ち上がってなるべく遠くまで見渡すと、幸いにも、と言っていいかは微妙だけど血の跡はずっと続いていた。それを辿ればさっきのリムジンは見つけられるはずだ。  思いの外、血痕と血痕の距離は遠いから出血はあまり多くないのかもしれない。  不安は少し軽くなったけど、早く見つけるに越したことはない。  そうと決まればまずやるべき事がある。 「今度こそコレの出番、っと」  リュックを漁り、銀色のアルミ箔に包まれた板を取り出す。  覆われていてもなお漂うこの香り。それが俺の欲求をさらに高めてしまう。  十分に香りを楽しんでから包装を丁寧に剥がし、ご対面。 (この独創的な模様……。さすがだ……芸が細かい)  その見た目にも満足して、ようやく一番の楽しみへとたどり着く。  ──パリッ。  柔らかく繊細な音が口内に響く。シンプルだけれど、深みのある味。市販とは一線を画している。  そして──  ──ドクン。 (来た来た──!)  体の奥底から力が溢れ、それが全身にくまなく流れ込む。頭のてっぺんからつま先まで全てに力が漲っていくのがよくわかる。  鳥肌が立つような、体中がザワつく感覚。数秒の後、それが過ぎると力が安定して緩やかに俺の身体を巡る。  一息ついてから手に持っている至高の一品をまた丁寧に包み直す。残りは後にとっておくために。  再びリュックの中にそっ、としまうと、今度は体の調子をチェック。関節をほぐしながら筋肉のストレッチも欠かさない。 (どこも異常なし、と)  それを確認すると、ぴょんぴょん跳ねて脚の準備運動。どのくらい走るかわからないから少し念入りに。 「ごーろーくしーちはーち、っと」  屈伸、伸脚を終えて、俺は前を見据える。
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