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「ちょ、ちょっと待ってお姉さん」
「はい、なんでしょうか?」
「うん。さわやかだねぇ。出会いのころとなんら変わらない優しい笑顔だねぇ。さっきまでヘイヘイ言っていた人の顔とは思えないねぇ。お姉さん。お腹じゃない」
「お腹じゃない」
「そう、お腹じゃない。殴るところはお腹じゃない。お腹を殴っても脱腸するだけで終わっちゃう。死ねないの。顔殴って。とにかく顔。分かった? 顔だよ、顔」
「分かりました、顔ですね」
グチャン、良い音がした。でもお姉さんそこ首だねぇ。首殴ったねぇ今。首は駄目だねぇ。もう色々と駄目だねぇ首は。喉仏潰れちゃったねぇおかげさまで。
どうしてそこで顔を殴ることを躊躇しちゃったのかねぇ。さっきまで容赦なく殴っていたじゃないか顔を。どうしていざ改めて殴ろうとなると手元がくるったのかねぇ。
「ゲホッオホッゴホホホゥ!」
「す、すいません!」
「お姉さん。か、顔ですゴホッ。首ではありません。顔ですゴホホッ!」
「か、顔ですね! 大丈夫です! 次は間違えません!」
「ほ、本当に宜しくお願いしますよっ!」
バキン、良い音がした。いや、これは文句のないクリーンヒット。良いパンチだよお姉さん。さっきまでと比べて、僕の顔にジャストフィットだ。フィット感半端ない。良いパンチ。すげぇ効く。これはマジ良いぞ。
「お姉さん! 最高のパンチです! もう一度お願いします!」
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