3/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 しかし、人々の期待は裏切られ続けた。雨はどんなに待っても降ることはなかった。雲一つない快晴の下、地上の気温は上昇を続けた。  初めこそ、大きなため池のように溜まっていた水も気温の上昇、人々への水のい配布が行われるにつれて、その量を減らした。水が減れば当然のことながら、人々に配布される量も減る。食料と水不足で命を落とす者が続出した。  人々は亡くなった者達に対して、せめてもの弔いとして、池の周りに埋めて墓標となる墓石を置いた。墓石といっても、綺麗に加工する技術もなければ体力もない。亡くなった人が住居としていた家を解体し材料として使われていた石をそのまま墓石の代用とした。  池は確実に枯れていた。墓石が池の周りを覆う頃には池は小さくなっているのが目に見えて分かる。今度は、その小さくなった池を覆うようにして墓石が並べられた。その作業をずっと、人々は繰り返した。その度に、水は減っているとイヤでも自覚しなければならなかった。  数年後、この地上で生存している者は貧弱な男、一人だけになってしまった。池の水も、彼が壊れたコップ一杯に掬った分を最後にして残りは蒸発した。彼はコップの中で揺らめく水を見た。かつて、この水が地上に溢れていたななどという話など夢物語になりつつあった。あまりにも、昔すぎて、誰もがその時のことを覚えていない。唯一、覚えていた彼の父親も先日、逝った。  彼はコップに残った水をチャプチャプと音を立てなのがら名残惜しそうに見つめた。決して清潔とは呼べない水。だが、今となっては地上に残る最後の水だった。その水ですら、コップの中で僅かであるが蒸発している。このまま、放っておけば、あと数時間もしない内に水は無くなるだろう。彼は名残惜しいと思いつつも、水を一気に口に含んだ。太陽の熱で温められた水は冷たくもなく、生ぬるく彼の口の中に残った。味は最悪だ。土の味が混じっている。煮沸しなければ、飲めた代物ではないが、今はその煮沸さえ惜しむ。煮沸すれば、その分だけ水の蒸発を早めてしまうから。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!