【旋 律】前編 第一章

3/33
1989人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
平日の朝、 いつものように夫を送り出した円香(マドカ)は、猫の額ほどの小さな庭に出て洗濯物を干していた。 春の柔らかな日差しの中、白いワイシャツが目に眩しく映る。 ふと顔を上げると、新緑の香りを含む風が心地よく感じ、そんな些細なことに幸福感を覚えた。 エプロン姿で洗濯物をパンパンと伸ばして丁寧に干しながら、 自分もすっかり主婦業が板についたものだと円香は笑みを浮かべつつ、心地良い春風に目を細めた。 4月。 何かが始まるような気がして、自然と胸が弾むことを感じていた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!