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「あの、楓君って今時珍しいくらいイイ子ですよね。
お母さんを亡くされているのに、あんなに真っ直ぐないい子だなんて、きっとお母様のお力なんでしょうね」
そう告げると、恵美は驚いたように顔を上げた。
「驚いた、楓……亡くなったお母さんの話をしたんだ」
恵美は独り言のようにそう漏らしたあと、ふぅ、と息をつき、コーヒーのカップを包むように手にした。
「……あの子は、亡くなったお母さんの最高傑作ね。
あんないい子で、切なくなってきちゃうくらい」
目を伏せながらそう告げた恵美に、円香は「えっ……?」と眉を寄せた。
「……あの子のお母さんね、とても人柄の良い人で、家族に内緒でお友達の借金の連帯保証人になってしまって、結局、お友達に逃げられて多額の借金を背負ってしまったの。
それを旦那さんにも相談できずに、ファイナンシャルプランナーである私の所に相談に来てて……。
私はとにかくご主人にすべてを打ち明けて、夫婦で協力して一日でも早く借金を清算することを勧めたんだけど、結局、言えずに一人で抱え込んで……、
最期は自殺してしまったの」
恵美は沈痛な面持ちでそう告げた後、我に返ったように顔を上げた。
「やだ、初対面のあなたにこんなことまで話しちゃうなんて……。
でも、楓が亡くなったお母さんのことを口にするなんて聞いたことなかったから、つい」
口を滑らせた自分自身に困惑したように苦笑した恵美に、
円香は身を乗り出した。
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