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「あ、あの……私で良かったら聞かせてもらえませんか?
私、楓君にはとてもお世話になって……何かの形で返したい気持ちもあって……。
というよりも、どうやったらあんなにいい子ができるのか、人の親として単純に興味があると言うのか……」
円香が戸惑いながらもそう告げると、
「そうよね、あんないい子なかなかいないでしょう?」
と恵美は顎の前に手を組みながら皮肉めいた笑みを浮かべた。
「はい」
「でも、それはあの子の必死な防衛本能なのよね」
恵美はそう漏らして遠い目を見せ、ゆっくりと話を続けた。
「……彼女が亡くなってすぐに『私の保険金で借金を払うよう旦那に伝えて欲しい』っていう手紙が私の元に届いたのよ。
きっと自殺の前に用意したのね……。
その手紙を受け取った私は、ご主人に手紙を見せに行ったの。
ご主人は奥さんがただの事故ではなく、自殺だったということに大きな衝撃を受けてね、『どうして、借金なんかで命を落としたんだ、どうして、相談してくれなかったんだ』って、その場で泣き崩れちゃって。
私も伝えなければ良かったかもしれないって、本当に落ち込んだわ。
その時、楓はまだ六つで、黙って私の話を聞いていたわ……」
円香は何も言えずに、ただゴクリと息を呑んだ。
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