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――――…
美佳はいつものカフェで和馬を待っていた。
メイクは、ほとんど落ちていて、泣き腫らした目を見せていた。
「――どうしてくれるの?」
美佳から一部始終を聞いた和馬は、弱ったように頭をかいた。
酔った勢いとはいえ、悪いことをしてしまった、と和馬はバツ悪さに額を押さえた。
「私もあなたに同じことしていいの?
円香先輩と別れて私と一緒になってくれるの?
私ももう三十路になるのよ。結婚してくれって言ってくれる人に出会えるチャンスなんて人生で何度もないのよ?」
と美佳は泣き腫らした赤い目で和馬を睨んだ。
「――美佳、とりあえず杉田と話し合えよ」
「一体、何を話し合うの?『ええ、私は他の男と寝ています。だけど許して結婚しましょう』って話せばいいのかしら?」
噛み付くようにそう言った美佳に、和馬はグッと息を飲んだ。
「たった一晩の出来心だったって言えよ。
寂しくて酔っ払った勢いだったって。
杉田、名古屋に帰ったんだろう?
休みはまだ一日ある。追い駆けろよ」
和馬はそう言って「これ、新幹線代だ」と財布から数万円取り出し、テーブルの上に置いた。
美佳は戸惑いの表情を浮かべ、並べられた万札に視線を落とした。
「こういうことは時間が経てば経つほど、傷は深くなるぞ」
美佳はゆっくり頷き、お金を受け取るなり、居ても立ってもいられないようにカフェを飛び出して行った。
和馬はそんな美佳の後ろ姿を見送りながら、重苦しい気持ちで溜息をついた。
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