【旋 律】前編 第七章

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  「えっ?そんな……受け取れませんよ」 戸惑いながら紙袋を見詰める楓に、円香は慌てて手を振った。 「遠慮されるようなものじゃないのよ。 お弁当なの。塾の前に食べてね。 使い捨て容器に入れてるから」 そう言った円香に、楓は驚いたように目を見開いた。 「それじゃあ、さっき、キッチンに行ったのは、これを作っててくれたんですか?」 そう尋ねた楓に、円香はコクリと頷いた。 「ありがとうございます、あの……見てもいいですか?」 「えっ?今見るの? ……いいけど」 恥ずかしさを感じながらも頷くと、楓は「美味しそうな匂い」と漏らし、紙袋から丁寧にプラスチック容器の弁当を取り出し、蓋を開けた。 トンカツやエビフライ等をメインにぎっしり詰まった弁当に、楓は言葉を失った。 「慌てて作ったものだから、恥ずかしいんだけど」 「いえ、凄いです、豪勢ですね!」 楓は目を輝かせながら感激の声を上げ、 「……嬉しいなぁ」 と漏らした。  
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