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円香は脱ぎ捨てたジャケットをハンガーにかけた後、ふと和馬のうなじを見てキョトンと目を開いた。
「うなじのとこ、蚊に刺された?」
「えっ?」
「赤黒くなってるわよ」
その言葉に美佳が首に何度もキスしていたことを思い浮かべ、和馬は仰天して目を見開き、
食事の最中にも関わらず洗面所に駆け込み、慌てて合わせ鏡でうなじを確認した。
くっきりと付けられたキスマークに全身に冷たい汗をかくことを感じた。
「食事の途中なのに、そんなにムキになって確認しなくてもいいのに……そんなに痒くないの?」
不思議そうに洗面所に顔を出した円香に、
「ああ?
あー…痒いな。でも、大丈夫だ」
と和馬は動揺しながら答えた。
「薬出しましょうか?」
「い…いやぁ…そんなに痒くないから」
「でも、凄く赤黒いわよ、見せて」
と円香が触ろうとすると、
「触るなよ、凄く痒いんだから!」
と和馬は叫びながら、弾くように離れた。
「――えっ?」
ポカンとする円香を見ながら、
「やっぱり、薬を出しといてくれ」
と和馬は逃げるように洗面所を出た。
心臓が激しく音を立てた。
美佳の奴、何考えてるんだ?
和馬は、焦りと怒りを感じていた。
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