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「あのさ」
楓がポツリと呟くと、布施は「ん?」と顔を上げた。
「……もし友人にこれから待ち起こるかもしれない、つらい事実があることを悟ってしまった場合、それを本人に伝えるのと伝えないのは、どちらが最善だと思う?」
漏らすように尋ねた楓に、布施は「うーん」と小さく唸った。
「……難しい問題だな。
正解はないけど、その人の人格に沿う行動しかないよな」
布施は頬杖をつきながら、楓の机の上の参考書をパラパラめくっていた。
「人格に沿うと、伝えないほうがいいと俺は思うんだけど、何の心の準備もなくつらい事実に直面した時、より傷つくような気がして、遠回しでも悟らせた方がいいのかなとも思うんだ」
「本人が何も悟っていないなら、そのままにしてやるべきだな。
悟りやすい人間と鈍感な人間は、それに見合った度量を持ち合わせていると思うし」
「まあ……そうだよな」
楓は言葉を詰まらせ、そっと腕を組んだ。
「鈍感な人間って強いよな。
鈍感が故にずっと気付かずにいて、突然の不幸な現実に直面しても、ショックを受けつつなんとか対応できる度量があるんだ。
逆に広瀬みたいに、なんでも感づく人間は突然の辛い現実には立ち遭うことが出来ないんだろうなぁ。
だから人よりもアンテナが敏感なんだ」
その通りだろ?と笑みを見せた布施に、楓は苦笑した。
「それは、布施、お前自身のことだろ?」
そう切り返すと、布施は「そうだよ」と不敵に微笑んだ。
そんな布施に、楓は小さく笑った。
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