【旋 律】前編 第九章

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  “詮索されたくない” という信号をキャッチしたのだろうと、楓は思った。 当り障りのない自分には広く浅く『友達』が多い。 だが心を許せる友達は、そう多くはない。 そんな中でも前の席に座る布施は、心を許すことができる数少ない友達の一人だった。 いつも人をからかうような口調で話す男だが、人の気持ちを誰より敏感に察知する。 これ以上、踏み込まないで欲しいと思ったら、それを察して踏み込まない。 頭の回転がよく、多くを語らなくても理解するのが早い。 楓は布施のそういうところが心地良いと感じていた。 そしてそんな布施だけには、他の友人にはしないような相談や質問をぶつけることもしばしばあった。  
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