【旋 律】前編 第十章

12/31
1388人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
  「ごめんなさい……。 旦那ね……帰って来たらシャツが裏表逆だったの。 いつも私が用意するシャツを裏表逆に着ているなんて、一度脱がないとありえないのにね。 彼、二人の結婚記念日に……他の誰かと一緒に過ごしたのかな?」 何言ってるんだろう、こんな高校生の男の子の前で……。 そう思いながらも、とめどなく涙が流れた。 楓は心配そうに円香を見た後、制服のジャケットを脱ぎ、ゆっくり背中を向けた。 「楓くん?」 突然、自分に背を向けた彼に円香は戸惑い顔を上げた。 「……胸を貸すわけにはいかない気がするので……僕の背中で良ければ……」 その言葉に円香はキョトンとした後、「楓君ったら」とクスクス笑った。 そんな楓の優しさに触れ、今まで押しこめてきたものが溢れ出してくるように、涙が溢れ出た。 ……うっ!と漏らし、楓の背中にギュッとしがみつき、声を殺して涙を流した。  
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!