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「え……あ……いや」
和馬が返答に困り目を泳がせていると、
「円香先輩にはもう愛情はないのよね?
和馬さんが愛しているのは、私なのよね?」
と確認するようにそう尋ねた。
そう、何度も口にして来た。
円香にはもう愛情はない。
結婚しているから一緒に過ごしているだけだ、
好きなのは美佳だと……。
その時の言葉は、決して嘘ではない。
しかし心底の本気で言っていたわけでもないのが正直なところだった。
この場面で、
『嘘ではないけれど、本音ではないよ』
と言えるわけがなく、和馬は、ためらいながらもなんとなく頷いた。
すると美佳は露骨に表情を明るくさせ、わあ、と声を上げた。
「嬉しい、和馬さん。
私、がんばるわ」
そう言って嬉しそうに喜ぶ美佳に、和馬は背筋が寒くなるような気がした。
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