【旋 律】前編 第十一章

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  「国家試験前でもないのに、試験直前に六法全書なんて読むなよ。 折角覚えた公式が、遠くへ消え去るぞ」 その言葉に楓は「バカだな」と笑い、 「ちょっと個人的に調べたいことがあったんだ」 と言ってパタンと本を閉じた。 「さすが、将来の弁護士。 試験前に六法全書で個人的興味を満たすなんて、やることが違うねぇ」 「うるさいな」 取り合わずに息をつく楓に、布施は思い出したように顔を上げた。 「もしかして前に言ってた親戚の人の……『ショックを受けるであろう事実』が発覚したとか?」 敏感な布施の言葉に、楓は苦笑した。 「……薄々気付き始めているけど、発覚まではいっていない」 「同情もほどほどにな、勉強に差し支えるぞ」 楓は「同情?」と顔を上げた。 「彼女が苦しむのが、可哀相なんだろ?」 当たり前のようにそう尋ねた布施に、楓は言葉を詰まらせた。  
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