【旋 律】前編 第十二章

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  円香は戸惑いながら中を確認すると、楓が作成した『訴訟方法』『証拠になる物』等と書かれた書類が入っていた。 早速、作って持って来てくれたなんて……。 目頭が熱くなり、涙が滲んだ。 「円香さん、大丈夫ですか?気をしっかり持ってくださいね」 真っ直ぐに見詰めて心配そうに告げる楓の姿に、円香は堪えきれずに涙を零した。 「……つらいですよね」 切なく目を細めた楓に、円香は、ううん、と首を横に振った。 「――違うの、楓君があんまり優しいから……」 つらい時に優しさがこんなにも染みる。 私の為に、こんなに心配してくれて、ここまでしてくれるなんて。 楓の優しさに、涙が止まらなかった。 「これ……」 弱ったようにそっとハンカチを差し出した楓に、 「ありがとう、本当に優しいのね」 とハンカチを受け取り、涙を拭った。  
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