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「実際、恋が愛に変わった場合はその二つを兼ね備えると思います。
その人のすべてを求めて、全力で生涯をかけてその人を愛し、守ろうと思うと思います」
優しく微笑みながら穏やかにそう言った楓に、円香は納得したように頷いた。
……あなたに結婚を決意させる人は幸せね……。
心でそう呟き、眩しい水面を見るような気持ちで目を細めていると、楓は小さく息をついた。
「……二十代の頃は恋した相手と楽しく付き合うことが出来ても三十に近くなると結婚の意志を感じさせない僕に焦りを感じるみたいで。
それが原因で別れることが続きました」
「でも、恋した相手と結婚した結果、愛に変わることもあるんじゃない?」
少し身を乗り出してそう尋ねると、楓は苦笑を浮かべた。
「そうかもしれませんが、生涯の配偶者は恋で終わる相手ではなく愛せる人とじゃないとできません。
『一生、その人だけを守り、愛しぬける』と結婚前にそう自信を持って言える相手とじゃないと結婚できないと思って来たんです」
楓はコーヒーを飲み、また小さく息をついた。
「……恋をしてお付き合いをして月日を重ねても、結果、僕にとって愛せる人にまではならなかったんです。
これも男の勝手な言い訳なんですけどね」
自分の言い分にバツ悪そうに苦笑した楓に、円香は「ううん」と首を振り笑みを見せた。
「分かるわ、楓君は誰より結婚をとても真剣にとらえているのよ。
伴侶を持ったらあなたは、その人を全力で守りぬくでしょうね」
「そう思える人と結婚しようって決めてます」
そう告げた楓に、円香は少しすまなそうに目を細めた。
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