【旋 律】後編 第三章

4/31
1531人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
  「14年前のディベート大会地区予選! 俺は応援観戦に行ってたんだ。 お前が優勝の挨拶を途中で止めて、まっすぐ二階席を見ている。 『おや、広瀬は何を見ているんだ?』と俺も二階席を見ると、そこには可愛い年上の女性の姿が!見詰め合う二人。 『ああ、広瀬とあの人は何か関係があったに違いない!』すべてを察した俺。 そして、あの後のお前の挨拶!挨拶の中に込めた、切ない告白。 周囲の人間は、挨拶だとしか思っていない。 でも二人にしか分からない愛の告白。 あっ、俺は分かっていたけどな。 あの時の切なさと来たら……俺は一人で会場の外に飛び出て、トイレで膝を抱えて、おいおい咽び泣いたんだぜ」 布施は思い出しながら、うんうん、頷き、そして横目で楓を見た。 「そして14年の歳月を経て、その女性を射止めるとは、さすがは広瀬博士。 文学の世界だよなぁ」 シミジミとそう語る彼に、 「布施、お前は、うるさい」 と楓は肘で布施の首を抱え込み、締める真似をした。 そんな二人の仲良さそうな姿に、皆は声を揃って笑った。 楽しく微笑ましい、幸せな結婚式だった。  
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!