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――――……
「やだ、面白い。
薫くんは結局、亜美に投げ飛ばされるのが怖かっただけなのね」
その夜、楓から話を聞いた円香は声を上げて笑った。
「まったく、情けなくて溜息しか出なかったよ」
そう言って苦笑を浮かべる楓に、
「ストレートでかわいい子じゃない。
話を聞いていると薫くんって本当に亜美とどこか似てるわ。ストレートで屈託なくて。
似た者同士なのかもしれないわね」
と円香はクスクス笑った。
そんな話をしていると、
「ただいまー」
と亜美の声が響き、リビングショップに姿を現した。
そして楓の顔を見るなり、
「ねっ、お父さん、薫に聞いてくれた?」
と勢いよく詰め寄った。
「……うん、まあ」
「なんて言ってたの?」
真剣な眼差しを向ける亜美に、楓は弱ったように苦笑し、そんな二人の様子を円香は楽しそうに伺っていた。
「ああ、つまりあいつは亜美がそういうことを嫌がると思っているみたいで、それが怖いみたいなんだ」
楓は『殴られることを怖がっている』とは言えずに、そう告げた。
円香は横聞きしながら、
確かにそれも一理あるのよね、薫君は亜美が拒否すると思い込んでいるわけだし、
とクスクス笑いつつ一人頷いていた。
「そうなんだぁ。
じゃあ、私がもっとOKのサインを出せばいいのかな?」
亜美は楓を見てそう尋ねたあと、
「あっ、今は『お父さんモード』だものね。
こんな質問はおかしいわね。また、学校で聞きます」
と笑みを見せてドタドタと二階に駆け上がって行った。
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