1446人が本棚に入れています
本棚に追加
二人で線香をあげ手を合わせたあと、楓はゆっくりと立ち上がり、背を伸ばした。
「ここに眠る僕の母はね、僕が六つの時に他界したんだ。
……友達の借金の連帯保証人になったことを父に言えずに一人で抱え込んで自殺してしまったんだ」
初めて聞いた事実に、亜美の鼓動は強く音を立て、何も言えないまま、ただ目を見開いた。
「そして僕が八つの頃、今の薫の母・恵美さんとの再婚の話が持ち上がったんだ。
でも、恵美さんはいきなり継母になることを不安に思って、一度父のプロポーズを断わったそうなんだ。
――恵美さんを愛してしまった父は彼女を失いたくなくて、僕を神戸の祖母に引き取らせようと考えた。
――その時のこと、よく覚えてるんだ。
夜中に寝苦しくて起きたら、お父さんがお祖母ちゃんに電話をしていた。
『お母さん、楓を引き取ってくれないか』って話す父の背中。
僕の気配に気付いて、慌てて電話を切って、『新しいお母さんとお前が上手く行けば、何も問題はないんだけどな』と言い訳みたいに呟いて、そそくさと姿を消した」
「そんな……」
亜美はその時の楓の心中を察し、苦しく目を細めた。
最初のコメントを投稿しよう!