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「その時、僕は自分が捨てられないために、どうしたらいいのか考えたんだ。
そして次の日に、恵美さんの職場に行って『どうか、僕のお母さんになってください』って頭を下げた。
恵美さんは目に涙を浮かべて『勿論よ』って答えてくれたよ」
そう言って微笑んだ楓に、亜美はホッとして息をついた。
「それで僕は捨てられないことになった。
――でもね、その日から僕は欠落した人間になっちゃったんだ」
楓はそう言って自嘲気味な笑みを浮かべた。
「―――欠落?」
「そう、それまでの自分を殺してしまった。
自分がいらない人間にならないようにと、成績優秀で温厚で、物分かりのいい子供になった。
怒りもしなければ、イライラもしない、そんな取り繕った自分になった。
取り繕っているうちに、大きな喜びも興奮もしない、まるでロボットのように感情が欠落した人間になったんだ」
「お父さん……」
淡々と語りながらも楓の苦しさが伝わってくるようで、亜美は胸の前で拳を握り締めた。
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