1536人が本棚に入れています
本棚に追加
ショップに足を踏み入れると奥から拙いピアノの音が聞こえて来た。
「そこはゆっくりでいいから、落ち着いてちゃんと弾いてみてね」
円香はレッスンに訪れた近所の主婦に優しく指導していた。
楓はショップのテーブルにつき、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。
そんな楓を眺めながら亜美は何も言わずに、その向かい側に座り、はぁ、と息をついた。
「なんだか、浮かない顔だね?」
小さく笑ってそう言った楓に、亜美は「うん」と頷いた。
「夏も終わるなぁと思ったら……なんだかね。夏の終わりってさびしいよね」
そう言って頬杖をつき、窓の外を眺めた亜美に、楓は本から目を離してニコリと微笑んだ。
「そうかな?僕は好きだよ。夏の終わり」
「どうして?」
「秋が好きなんだ。
夏の終わりの暑い中にも涼しさを含んだ風が、強い日差しに晒らされ続けた肌に優しい感じがするし」
そう告げた楓に、亜美は、「へぇ」と感心の息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!