【旋 律】後編 第八章

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  その後、話が終わりなんとなく皆が散り散りになったときに、そっと広瀬の元に歩み寄り、 「あんな女と付き合わなきゃ良かったな」 と告げると、広瀬は少し驚いたように目を開き、そしてクスリと笑った。 「――布施は優しいんだな」 その言葉に目を丸くした。 優しい? この俺が? 今まで一度も言われたことがない言葉に戸惑い、目を泳がせていると、広瀬は少し遠くを見るように柔らかく目を細めた。 「付き合って良かったと思ってる」 その言葉に、えっ?と眉を寄せると、 「……マザコン呼ばわりされて、別れを突きつけられたとき、珍しく『悔しい』と思ったんだ」 そう告げたあと広瀬はそっと目を伏せて、 「……そんな感情が残ってたことが嬉しかったよ」 と漏らしてニコリと微笑み、そっと背を向けた。 何か大きな苦しさが押し寄せ、言葉を発することが出来なかった。 自分のちっぽけな鬱積など、問題にならないくらい、彼は大きな傷を背負っているように思えた。 その重さに、とにかく圧倒され、立ち尽くすことしか出来なかった。  
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