【旋 律】後編 第八章

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  そんなある日、クラスメートに貸していた本が返って来たので、なんとなくそれを眺めている時のことだった。 手にしている本の背表紙を見るなり、広瀬が驚いたように近付いてきた。 「布施、この作者の本、持ってるんだ?」 俺が広瀬に話し掛けることがあっても、広瀬から声を掛けられることは皆無に等しい。 珍しい出来事に驚きながら「ああ」と頷いた。 「……親父の本だけどな」 「この作者の本はもう絶版になってて、もう出版社に行っても手に入らないんだ。 古本屋やネットオークションで探してても、皆大事に持っているみたいで見付からなくて」 本に視線を向けたままそう告げる広瀬に、 「この作者の本ならうちに結構揃ってるぜ。なんなら見にくるか?」 戸惑いながらそう言うと、「いいのか?」と目を開いて身を乗り出した。
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