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その後、話が終わりなんとなく皆が散り散りになったときに、そっと広瀬の元に歩み寄り、
「あんな女と付き合わなきゃ良かったな」
と告げると、広瀬は少し驚いたように目を開き、そしてクスリと笑った。
「――布施は優しいんだな」
その言葉に目を丸くした。
優しい?
この俺が?
今まで一度も言われたことがない言葉に戸惑い、目を泳がせていると、広瀬は少し遠くを見るように柔らかく目を細めた。
「付き合って良かったと思ってる」
その言葉に、えっ?と眉を寄せると、
「……マザコン呼ばわりされて、別れを突きつけられたとき、珍しく『悔しい』と思ったんだ」
そう告げたあと広瀬はそっと目を伏せて、
「……そんな感情が残ってたことが嬉しかったよ」
と漏らしてニコリと微笑み、そっと背を向けた。
何か大きな苦しさが押し寄せ、言葉を発することが出来なかった。
自分のちっぽけな鬱積など、問題にならないくらい、彼は大きな傷を背負っているように思えた。
その重さに、とにかく圧倒され、立ち尽くすことしか出来なかった。
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