【旋 律】後編 第八章

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  「エロ本とかないの?」 ニッと笑ってからかうよう尋ねると、広瀬は平静な表情をこちらに向けた。 「ああ、あるよ。お前のすぐ後ろの本」 思いもしない即答に、驚きながら後ろを振り返ると『源氏物語』が並んでいた。 ――源氏物語? 「広瀬、お前、源氏物語でするのか?」 思わず露骨に尋ねると、広瀬はプッと吹き出した。 「冗談だよ」 その言葉にポカンとしたあと、 「いや、お前が言うと冗談に聞こえねぇよ」 まんまと引っ掛かったことに肩をすぼめてそう漏らすと、 「いくらなんでも無理だな。古文の読解の方に意識が集中するし」 サラリとそう告げた広瀬の思いもしない言葉に、たまらなくおかしくなり、二人で顔を見合わせて笑った。  
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