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――――…
それからしばらくしたある時。
数学の授業が自習となり、皆に問題プリントが配られた。
自習とはいえ、時間内にすべて回答して提出しなければならないもので、教室内は静かなものだった。
サッサと終わらせて寝ようと思いながら取り掛かったものの、問題の一つが解けずにイライラし、思わず「くそっ」と声を出して舌打ちすると、
前に座る広瀬楓がそっとこちらを振り返った。
思わずバクンと鼓動が跳ねる。
こいつが用もないのに振り返るなんて、滅多にないことだった。
明らかに問題を解けてないことを可笑しく思っているんだろうか?
恥ずかしさとバツの悪さを感じていると、彼はこちらの手元に視線を落として、
「公式、それじゃなくて、もう一つあるだろ」
とそれだけ言って、前を向いた。
その言葉に、改めて問題を見直し『あ、そうだ、なるほど』と息をついた。
「……サンキュー、広瀬クン」
軽くそう言うと、彼は前を向いたまま軽く手を上げた。
その時の俺は、こうして交流を持てたことが、なぜか嬉しくて、なぜ嬉しく感じるのか分からず、
複雑な気持ちで広瀬の背中を眺めていた。
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