【旋 律】後編 第八章

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  「布施こそ、ここで何してるんだ?」 「ああ、今まで友達の家にいて帰る途中だったんだ」 「そうか、それじゃあな」 そう言い手を上げて背を向けた広瀬に、思わず「あのさ」と声を掛けた。 キョトンとして振り返る広瀬に、 「……悪い、トイレ貸して」 とバツ悪さを感じながら、そう告げた。 そう、勿論本当にトイレを貸してもらいたいわけじゃない。 気が付くと、その言葉が口をついて出ていた。 そんな自分に広瀬は小さく微笑んで「ああ、いいよ」と頷き、「こっち」と歩き出した。 そうして、そんな小嘘をついて広瀬の家に足を踏み入れた。 広瀬の住むマンションは3LDKのごく普通の集合住宅という感じだった。 さっきの女の家よりも広いから、これは少し大きめなんだろうか? そんなこと思いながら、トイレを出てリビングに向かうと、広瀬がキッチンに立ち手慣れた手つきでフライパンを振り、オムライスを作っていた。
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