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突然の沈黙に会場がざわめき始めた。
「おい、どうしたんだ?」
「大丈夫かよ、あいつ」
そんな言葉に肝が冷えて手に汗を握っていると、
広瀬は小さく咳払いをし、二階席の彼女を見詰めたままゆっくりと口を開いた。
「これは、僕個人の感想なんですが……ディベート部に入ったのは小さな出会いからでした。
その小さな出会いは『縁』のようなものだったと思います」
―――えっ?
「そんな中、一緒に……目的を持って過ごすようになり心が弾むほど楽しく、アッと言う間にその時間が過ぎることを寂しく思うほどになっていました」
……広瀬?
彼女を見たままそう話す広瀬に、ただ目を開いた。
「携わる時間が毎日の楽しみとなり、いつの間にこんなに僕の心を占めていたのか分かりません。
気が付いたら、かけがえのない大切な存在になっていました」
強い口調でそう告げる。
会場の誰もが気付いていないが、広瀬はこの挨拶をたった一人だけに向けて発していた。
二階席の彼女は驚きに身体を硬直させた様子ながらも、目をそらさずに広瀬を見ていた。
まるで禁忌の逢瀬を覗き見てしまったような罪悪感を覚えながらも固唾を飲んで壇上を見守った。
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