【旋 律】後編 第十章

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  「僕は全国大会が終わったら勉強に集中する為、部を去らなくてはなりません。 去ることになり寂しく切なくも思います」 広瀬はそう言って目を伏せて小さく息をつき、そしてしっかり顔を上げ、彼女を見た。 「去ることになり、自分がこんなにも好きだったことを知りました」 熱のこもったその強い言葉に、こちらの鼓動も強くなる。 ……想いを告げられたんだ。 「ですが、好きな気持ちだけでは続けられないこともあります。 こんなことなら最初から携わらなければ良かったとも思いました。 でも、やはり……知り合うことができて僕は幸せでした。 携わることが出来たこの短い時間で多くを学び、そして今まで感じたことのない大きな感情を与えてくれたことを感謝しています。 そして、この思い出は生涯、決して忘れはしないでしょう」 切なく、そして苦しくそう告げたその言葉の真の意味を知る者は彼女だけだろう。 それは、他の者にはただのスピーチで、彼女にだけが分かる『告白』。 巧緻に想いを織り込んだ、まるで暗号のような告白は、圧倒されるほどに見事で美しく、そして胸に迫る。  
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