【旋 律】後編 第十章

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  広瀬の想いに胸が詰まり、手が小刻みに震えることを感じながら、二階席に目を向けると、彼女は立ち尽くしたまま、涙を流していた。 きっと彼女も広瀬と同じ気持ちなのだろう。 どうしてだよ、お互い好きならいいじゃんか。 もう、何も考えずに抱き合えばそれでいいじゃんか。 後先のことなんて、後から考えればいいじゃんか。 どうしてだよ、どうしてやっと広瀬が自分を出せる相手と巡り合えたのに、 その相手は結ばれてはいけないような相手なんだよ。 どうして、あいつばかりそんな辛い思いをするんだよ。 二人の想いの苦しさに堪えきれなくなり、会場を飛び出し誰もいない通路に出るなり、涙が溢れ出た。    
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