1437人が本棚に入れています
本棚に追加
その時、会場からワーッという割れるような歓声と盛大な拍手が聞こえてきた。
本物の想いが詰まった挨拶は、何も分からない観客の心をも動かしたのだろう。
……これ以上、あいつが苦しい想いをしなければいい。
息苦しくそう思っていると、階段からあの彼女が下りて来る姿が見えた。
彼女は目に涙を溜めたまま、そのまま静かに会場を出て行った。
遠ざかる小柄なシルエットを眺めながら、ギュッと拳を握り締めた。
―――想い合いながらも、別れなければいけない。
その辛さは想像を絶するものなのだろう。
彼女の後ろ姿を見送り、再び会場に戻ると、皆に囲まれている広瀬の姿が目に入る。
「――良かったな、広瀬。ちゃんと伝えられて」
そう言って肩に手を乗せると、
「ああ、ありがとうな。
色々思うことはあるけど、やっぱり伝えられて良かったよ」
と広瀬は小さく微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!