【旋 律】後編 第十章

7/37
前へ
/37ページ
次へ
  その時、会場からワーッという割れるような歓声と盛大な拍手が聞こえてきた。 本物の想いが詰まった挨拶は、何も分からない観客の心をも動かしたのだろう。 ……これ以上、あいつが苦しい想いをしなければいい。 息苦しくそう思っていると、階段からあの彼女が下りて来る姿が見えた。 彼女は目に涙を溜めたまま、そのまま静かに会場を出て行った。 遠ざかる小柄なシルエットを眺めながら、ギュッと拳を握り締めた。 ―――想い合いながらも、別れなければいけない。 その辛さは想像を絶するものなのだろう。 彼女の後ろ姿を見送り、再び会場に戻ると、皆に囲まれている広瀬の姿が目に入る。 「――良かったな、広瀬。ちゃんと伝えられて」 そう言って肩に手を乗せると、 「ああ、ありがとうな。 色々思うことはあるけど、やっぱり伝えられて良かったよ」 と広瀬は小さく微笑んだ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1437人が本棚に入れています
本棚に追加