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「それではこの原稿、お預かりさせて頂きますね」
「よろしくお願いします」
二人はニッコリと笑顔を交わし合った。
そして布施はその笑顔のまま、
「……これで、打合せ終わりですよね?」
と尋ねると、裕子も笑顔のまま頷いた。
「はい、今からは『ただの同級生』です」
その瞬間、布施はスッと真顔になり、腕を組んだ。
「なーにが、『素晴らしいです、先生』だよ、どの口が言ってんだよ」
吐き捨てるように言った布施に、裕子も鼻で笑った。
「こっちこそなにが、『恋愛の多くは錯覚によって陥るもの』よ。
まともに恋愛もしてない男にそんなご大層にこんなこと言われたくないわよね」
「それはこっちの台詞だな。
そんなカサついた雰囲気で男日照りが見え見えだぜ。
お前は中学ん時から、変わんねぇな」
「中学の時の私のことなんて覚えてなかったくせに。
それに、それこそこっちの台詞よ。
いい歳して若い女のケツばかり追いかけて、恥ずかしくないの?」
「追いかけるのは最初の一瞬だけ。
あとは向こうが追いかけてくるから」
そう言ってニッと不敵に笑った布施に、
「本当にどうしてこんな男がモテるのか、世も末よね」
裕子は『やれやれ』と肩をすぼめた。
「それは俺が博学で、そこそこのルックスの持ち主で、その上、洞察力に優れているからだよ」
「あなたこそ本当に、中学の時から変わらないわね」
と裕子は呆れたように頬杖をついた。
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