【旋 律】後編 第十一章

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  布施と佐伯裕子は中学時代の同級生だった。 雑誌の仕事を通して再会したとき、裕子は少し驚いたように、声を上げた。 『布施君だよね? 私、同じ第一中学の佐伯裕子よ。三年間同じクラスだったでしょう?』 それを言われても、布施はすぐには思い出せなかった。 その理由は明白。 彼女が特に美人でも目立つタイプでもなかったからだ。 彼女は成績の良い、学級委員タイプの真面目な女生徒だった。 布施の最も食指の動かないタイプだ。 ルックスもパッとせず中途半端に頭がいいため、プライドが高く、頑固に生きているタイプの女。 しかし大人になった今の彼女は言いたいことを言わせてくれる度量を持っていた。 仕事の時は雑誌社のスタッフと大学の講師として真面目に打合せをし、それが終わると、互いに同級生に戻って少し楽しむように言いたいことを言い合っていた。  
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