【旋 律】後編 第十二章

28/40
前へ
/40ページ
次へ
  薫は呆然と目を開いた。 「えっ?いいよ、そんな。 しばらくしたら、いなくなるんだし。 ……帰ってきてからって、思ってたんだ」 「だから、離れ離れになる前に、ちゃんとお互いを知っておこうよ」 頬を赤めながら俯いてそう告げた亜美に、薫は眉をひそめた。 「亜美は俺がいなくなると思ったから、そんな気になってるだけだろ?」 そう言い、目をそらした薫に、亜美は首を振った。 「私ね、今まで薫のこと好きだったけど信用してなかった気がするの」 「はっ?」 「いつもガツガツ飢えてて薫は私のこと好きだけど、そういうことしたい気持ちの方が強いんじゃないかな、って不安だったの。 でもね薫が私のことを想って、色々考えて、がんばってくれてる姿を見て、そうじゃないって本当に思えたの」 亜美はそう言い、薫の胸に飛び込んだ。 「大好きだよ、薫」 「いや、駄目だよ。 だって、そういうつもりで旅行に来てないから、避妊具も何も用意して来なかったし」 戸惑いながらそう告げた薫に、「ええ?」と亜美は目を開いた。 「そういうのを用意するのは、男のエチケットでしょう?」 「だから、そういうことすると思わなかったから」 「もーっ、なんなのよ、それ」 「じゃあ買いにいく?さっきのスーパーに」 伺うように尋ねる薫に、亜美は複雑な表情を浮かべながらも、なんとなく頷いた。  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1338人が本棚に入れています
本棚に追加