【旋 律】後編 第十二章

3/40
前へ
/40ページ
次へ
  いつも長めの重たいヘアスタイルだった。 ずっと昔から同じ長さの同じ髪型を続けてきた。 変化が怖かった。 何かに縛られているかのように、新しいことに踏み出せなかった私。 バサバサと切られ、頭がどんどん軽くなって行くような気がした。 布施君がどういうつもりかは分からない。 でも、思ったんだ。 人生で一度くらい、馬鹿になってみてもいいかもしれないって。 裕子は、どんどんスッキリしていく自分の姿を鏡で見ながら、そう思い、 遂にショートヘアになった自分の姿に違和感を感じながらも、まあいいや、と肩をすぼめて苦笑した。 ヘアサロンを出て今度はコンタクトショップに訪れた。 使い捨てコンタクトセットを買い、早速装着して眼鏡をバッグにしまった。 スッキリした髪型に、ずっと愛用していた分厚い眼鏡から解放された自分は、まさに今までとはまるで別人だった。 裕子は変わった自分に嬉しくなりながら、バッグから布施の名刺を取り出した。 行くことができるんだろうか? 一笑されるかもしれないのに……。 裕子は『ふぅ』と息をついた。 ―――でも、彼のアドバイスで、こんなに変われた。 そのお礼を言いに行くだけで、いいじゃない。 裕子はまた自分に言い聞かせるように、地下鉄へと向った。    
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1337人が本棚に入れています
本棚に追加