【旋 律】後編 第十二章

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  「円香……」 静寂の中、ポツリとそう漏らした楓に、円香はそっと顔を上げた。 「……僕の知人にお金をとても欲している人がいて、株を勉強して、望む分だけのお金を手に入れたという人がいるんだ」 突然ガラリと変わった話題に、円香は戸惑いつつも、黙って楓の横顔を眺めた。 「……彼は望む分だけのお金を手に入れたのに、それだけでは足りない気持ちになって、その手に入れたお金を全て遣って、また株に投資し続けた。 色々あって結果的に彼は多額の借金を作ってしまったんだ。 ―――円香はその彼のことをどう思う?」 そう言って視線を合わせた楓に、 「え……それは……『最初の時にやめておけば良かったのに』って思うわ」 「うん、僕もそう思う。 でも、人って手に入れたら、贅沢になる生き物みたいなんだ」 そう言って目を細めた楓に、円香は何も言えず息を呑んだ。  
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