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何も言えずに俯く円香の背を楓は優しく撫でた。
「……子供のことを浮き彫りして、そのことに囚われて、今の幸せが失われることが怖いよ」
漏らすように切なくそう告げた楓に、円香は目に涙を浮かべた。
「……円香が僕のことを思って子供のことを考えてくれるのは嬉しいよ。
でもそのことで、君が悲しんだり、つらくなったりすると言うなら、僕はとても苦しいくらい切ない。
そんなことで、こんなに幸せなのに、多くを望んで見失いたくないって心から思うよ」
「楓くん……」
「僕のことを心配してくれてありがとう。でも、もうそんな心配はもうしないで。
子供なら亜美がいるんだ。
誰かに僕の学んだことや、意志を継いでほしいと思うことはあるけど、それは僕の多くの学生が僕の教えたことを吸収し巣立ってくれる。
……僕はこの上なく恵まれているよ」
そう言って柔らかく微笑み、優しく肩を抱き寄せた楓に、円香はウッと涙を流した。
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