【旋 律】後編 第十二章

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  「この先、僕の友人達の多くが結婚していって、やがて子供が出来て、その子に会いに行くこともあると思う。 その度に円香は僕を思って、つらい思いをするんじゃないか心配だよ。 ……どうか生涯今夜のことは忘れないで。 僕は本当に、もうこれ以上ないくらい幸せなんだ。 ――円香の側にいられるんだから。僕は君がいてくれたらそれでいい」 円香は大粒の涙を流しながら、何度も頷いた。 忘れられるはずがない。 今この時のことを……。 以前、一緒にこのベンチに並んで座ったときは、あなたは17歳の少年だった。 『頭でっかちな故に動きの取れない、赤ちゃんと一緒です』 そう言って、自分は何の力もない、と苦笑を浮かべていた楓くん。 そんなあなたは、なんて大きな大人になったんだろう。 こんなに大きな包容力で、私を包んでくれる。 楓くん、私こそ、 私こそがこれ以上ないくらいに幸せだというのに。  
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