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楓は温室に向かった二人の背中を見送ったあと、
「本当に随分電撃なんだな」
と小さく笑って、布施を見た。
「まあな。
長い間、引き摺ってきたものにも終止符を打ったし、ここらでそろそろ結婚したいと思ったんだ」
布施はそう言って笑みを浮かべながら、頬杖をついた。
「彼女とは付き合ってたのか?」
「いや、仕事を通しての交流しかなかったけど、俺が唯一尊敬できる女なんだ。
どうやら俺は尊敬できる奴しか、大切にできない男らしい」
「なるほどな」
「……意外に思うだろうけど、結婚願望はずっとあったんだ。
最低の家庭に育ったからさ、絶対に楽しくて暖かい家庭を築きたいと思ってた」
そう言って遠くを見るように目を細めた布施に、楓は何も言わずに見守っていた。
「あいつといると楽しいんだ。
小学生の男子と女子みたいに楽しい口喧嘩して過ごせる。
しっかりしてるし頭もいいし察しもいい。いい嫁になるよ」
その言葉に、楓は柔らかな笑みを浮かべた。
「そうか。俺も嬉しいよ」
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