【旋 律】後編 第十四章

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  「さっきから呆けたような顔してなんだよ?」 その言葉に自分がポカンと口を開けていたことに気付き、慌てて顔を正した。 「だって職場に就いて、いつも通り仕事をしていたら、昨夜のことが夢だったような気がしていたところなの。 ……夢じゃなかったのよね」 こう言いながら、今この場にいることも、どこか現実感がなくて……。 「まあな、32年間男っ気なしで、いきなり経験して、すぐさま結婚へ、なんてことになったら、混乱するよな」 楽しげクックと笑った布施に、 「他人事みたいに……」 と裕子は息をつきながらも、その言葉でようやく現実味を帯びてきたように感じた。  
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