【旋 律】後編 第十四章

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  32年間、枯れたような人生を送ってきて、いきなりこんな幸せになるなんて夢にも思わなかった。 「近々、裕子の親にも挨拶に行かなきゃな。 同じ中学だったくらいだから、実家同士近所だろ?」 「うん、近所だよ。うちの親、布施君の家知ってるもの。 凄いお屋敷よね。そんな布施君と結婚するって言ったら、きっとひっくり返るわ」 楽しげにそう言った裕子に、布施は眉をひそめた。 「……ああ、一つ頼みがあったよ」 「えっ?」 「俺、親のスネで大学院まで出してもらったけど、今後は親から何ももらうつもりはないんだ。財産も全て放棄するつもりだ。 そのことだけ心に留めておいて欲しいし親の財産は、あてにしないで欲しい。 その代わり俺なりにがんばってお前を楽させるから」 強い口調でそう言った布施に、裕子の胸は熱くなった。 「うん、分かった」 とても、しっかりした人だ。 この人なら尊敬できる。 きっと、やって行けるだろう。 裕子は布施を見ながら、強くそう思った。  
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